「キャッシュを削除してください」
ウェブサイトがうまく表示されないとき、こんな案内を受けることがあります。
でも、キャッシュって何? どこにあるの? そもそも、どうやって削除するの?
「簡単にできますよ」と言われても、いや、その簡単な方法がわからないから困っているんですけど……。
実は、こうした説明する側とされる側の認識のずれは、業務の引き継ぎやマニュアル作成でも起きています。
- 丁寧に説明したつもりなのに、何度も同じ質問を受ける。
- マニュアルがあるのに、担当者に聞かないと作業が進まない。
- 初めて作業する人に、どこまで詳しく説明すればよいのかわからない。
この記事では、キャッシュ削除の説明を例に、説明が伝わらない理由と、わかりやすいマニュアルを作成するための3つのポイントを解説します。
「キャッシュを削除して」で本当に伝わる?

キャッシュって何? まずはそこから説明してほしい
「キャッシュを削除してください」と言われても、そもそもキャッシュが何なのかわからない人もいます。
何かを消すということはわかっても、大切なデータまで消えてしまわないのか、不安になるかもしれません。
キャッシュとは、一度表示したウェブサイトの画像やデータなどを、一時的に保存しておく仕組みです。次に同じページを開くとき、保存されたデータを利用することで、表示を速くする役割があります。
便利な仕組みですが、古いデータが残っていると、ウェブサイトを更新しても変更内容が反映されないことがあります。そのため、キャッシュの削除を案内されるわけです。
仕組みを知っていれば納得できる話でも、何も知らない人にとっては「キャッシュを削除してください」という一言だけでは、何を求められているのかわかりません。
専門用語を知っている人は、相手もその意味を理解していると思い込んでしまいがちです。
専門用語を使うこと自体が悪いわけではありません。相手が知らない可能性を考え、必要に応じて意味を補足することが大切です。
「簡単に削除できます」と言われても、操作方法がわからない
キャッシュの意味がわかったところで、次の問題があります。
「設定画面からキャッシュを削除してください。簡単にできますから」
いや、だから、その設定画面がどこにあるのかを教えてほしいんですけど……。
説明する側にとっては、何度も行っている簡単な操作かもしれません。しかし、初めて操作する人は、設定画面を開くところから迷ってしまいます。
しかも、パソコンなのかスマートフォンなのか、ChromeなのかSafariなのかによって、操作方法も異なります。
説明する側が「簡単です」と言っても、それだけで相手が操作できるようになるわけではありません。
簡単かどうかを決めるのは、説明する側ではなく、実際に操作する人です。
相手が使用している環境を確認し、必要な手順を具体的に伝えることが重要です。
なお、実際にキャッシュを削除したい方は、政府広報オンラインで具体的な操作手順を確認できます。パソコンやスマートフォンなど、使用している環境に合わせて説明されていますので、参考にしてみてください。
参考:政府広報オンライン「ブラウザのキャッシュを削除する方法」
「それくらいわかるでしょ」が、さらに質問しづらくする
「こんなの簡単ですよ」
説明する側に悪気はなくても、わからない人にとっては、少し困る言葉です。
簡単だと言われた手前、「その設定画面はどこですか?」「どれを削除すればいいんですか?」と、何度も質問するのが気まずくなってしまいます。
結局、自分で調べ始めたり、よくわからないまま操作したり、諦めてしまったりすることもあるでしょう。
もちろん、すべての操作を一から説明する必要があるとは限りません。しかし、相手がどこまで理解しているのかを確認せずに説明を省略すると、かえって相手を困らせてしまいます。
そして、ここで少し考えてみたいことがあります。
自分が説明する立場になったとき、私たちも同じことをしていないでしょうか。
ITの専門用語はわからなくても、自分が普段担当している業務なら、当たり前のように使っている言葉や、説明しなくてもわかると思っている手順があるはずです。
業務の引き継ぎでは、まさに同じ問題が起きています。
業務の引き継ぎでも、同じことが起きている

担当者の「当たり前」は、後任者には通用しない
例えば、業務の引き継ぎで次のように説明されたとします。
「月末に売上データを集計して、所定のフォルダに保存してください」
毎月この作業を行っている担当者なら、何も迷わずに作業できるかもしれません。しかし、初めて担当する人にとっては、わからないことだらけです。
売上データはどこから取得するのか。集計期間はいつからいつまでなのか。所定のフォルダとはどこなのか。ファイル名には決まりがあるのか。
「キャッシュを削除してください」と言われたときと、まったく同じです。
説明する側は、何度も繰り返している作業だからこそ、細かな手順を意識しなくなっています。そのため、後任者が何を知らないのか、気づきにくくなってしまいます。
担当者にとっての当たり前が、後任者にとっても当たり前とは限りません。
マニュアルを作成するときは、自分が業務を理解していることを前提にせず、初めて作業する人がどこで迷うのかを考える必要があります。
操作手順だけでは、正しく業務を進められない
それでは、操作を一つずつ細かく書けば、わかりやすいマニュアルになるのでしょうか。
実は、それだけでは不十分です。
例えば、売上データを集計する手順が、画面のスクリーンショット付きで丁寧に説明されていたとします。
ところが、「前月分のデータを出力する」という指示について、集計期間の説明がありません。
暦月の1日から末日までを集計するのか。それとも、会社独自の締め日を基準にするのか。
ここを間違えると、操作手順が正しくても、集計結果は間違ってしまいます。
業務マニュアルでは、操作方法だけでなく、その操作を行う目的や、正しく処理するための判断基準も重要です。
「どのボタンを押すか」がわかっていても、「どのような場合に、そのボタンを押すのか」がわからなければ、実際の業務には対応できません。
説明を省略した結果、質問と手戻りが増える
「そこまで細かく説明しなくても、わかるだろう」
そう考えて説明を省略した結果、後から何度も質問を受けることがあります。
質問に答えるだけなら、数分で済むかもしれません。しかし、担当者が変わるたびに同じ説明を繰り返したり、誤った処理をやり直したりすることになれば、組織全体では大きな負担になります。
さらに、質問できる担当者が不在の場合、作業そのものが止まってしまう可能性もあります。
マニュアルがあっても、結局は特定の担当者に聞かなければ業務を進められない。これでは、業務の属人化を解消できません。
もちろん、すべての例外や判断をマニュアルに記載できるわけではありません。それでも、日常的に発生する作業や、繰り返し質問される内容については、あらかじめ整理しておくことで、担当者の負担を減らせます。
業務の属人化を防ぐには、操作手順だけでなく、担当者が持っている知識や判断基準を共有することが重要です。
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わかりやすいマニュアルを作成する3つのポイント
それでは、説明する側とされる側の認識のずれを防ぐには、どのようなマニュアルを作成すればよいのでしょうか。
ここでは、わかりやすいマニュアルを作成するための3つのポイントを紹介します。
1.読み手の知識や経験を想定する
マニュアルを作成する前に、まず考えたいのが「誰が読むのか」ということです。
同じ業務でも、新入社員と経験豊富な担当者では、必要な説明が異なります。
例えば、パソコン操作に慣れている人を対象とするなら、ファイルの保存方法まで説明する必要はないかもしれません。一方、初めて使用するシステムについては、経験者であっても、画面の開き方から説明が必要な場合があります。
読み手が何を知っていて、何を知らないのかを想定することが、マニュアル作成の出発点です。
作成者だけで判断するのが難しい場合は、実際に業務を知らない人にマニュアルを読んでもらう方法もあります。
どこで迷ったのか、どの説明がわからなかったのかを確認することで、作成者自身では気づきにくい説明不足を発見できます。
2.操作を具体的に説明し、迷う場所をなくす
「設定を変更してください」「データを保存してください」
こうした説明は、すでに操作方法を知っている人には十分でも、初めて操作する人には不十分な場合があります。
例えば、システムの設定を変更するのであれば、次のように説明できます。
- システムにログインします。
- 画面右上の「設定」をクリックします。
- メニューから「通知設定」を選択します。
- 変更する項目を選び、「保存」をクリックします。
操作する画面や選択する項目を具体的に示すことで、読み手が迷う場面を減らせます。
また、画面操作では、スクリーンショットや図解を活用することも効果的です。文章だけでは伝わりにくい操作も、実際の画面を見ながら確認できれば、理解しやすくなります。
ただし、すべての操作を細かく書けばよいわけではありません。
説明が多すぎると、本当に必要な情報が埋もれてしまうこともあります。読み手の知識や経験に合わせて、適切な情報量に調整することが大切です。
3.操作結果と判断基準まで明確にする
マニュアルでは、操作方法だけでなく、正しく作業が完了したことを、どのように確認するのかも示しましょう。
例えば、「データを保存してください」という手順であれば、保存先やファイル名に加えて、保存後に何を確認すればよいのかを説明します。
「保存先のフォルダを開き、指定したファイル名で保存されていることを確認します」と記載すれば、作業者自身で完了を判断できます。
また、通常とは異なる結果になった場合の対応も重要です。
エラーメッセージが表示されたらどうするのか。データの数値が一致しない場合は、どこを確認するのか。自分で判断できない場合は、誰に相談するのか。
業務の内容に応じて、こうした判断基準や対応方法も整理しておくと、担当者が自分で対応できる範囲が広がります。
マニュアルの目的は、書かれた手順をそのままなぞることではありません。
読み手が必要な情報を確認し、正しく業務を完了できることが重要です。
まとめ|伝わる説明は、相手の立場から考える
「キャッシュを削除してください」
知っている人にとっては、たった一言で伝わる説明かもしれません。しかし、知らない人にとっては、何をすればよいのかわからない説明です。
これは、業務の引き継ぎやマニュアル作成でも同じです。
説明する側が当たり前だと思っていることでも、読み手にとっては初めて知る情報かもしれません。
だからこそ、マニュアルを作成するときは、読み手の知識や経験を想定し、必要な操作や判断基準を具体的に示すことが大切です。
そして、作成したマニュアルを実際に使ってもらい、わかりにくい部分を改善していくことも欠かせません。
「説明したかどうか」ではなく、「相手が理解し、実行できるかどうか」。
この視点を持つことが、わかりやすいマニュアルを作成するための基本です。
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